映画だけど映画じゃない『何か』 リトル・フォレスト夏/秋

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映画『リトル・フォレスト』

監督:森淳一

主演:橋本愛

 


映画『リトル・フォレスト 夏編・秋編』予告編 - YouTube

 

橋本愛がとれたて野菜で健康的な料理をひたすら作っては食べるという『味の素のCM』または『無印良品プロパガンダ』かと勘違いしてしまいそうになる内容だが、観ていくにつれて不思議な気持ちになって、終いにはこのまま延々と観ていたいと思わせるドラッギーな映画だった。(ちなみにエンドロールを見る限り無印良品は一切絡んでいなかった)

 

まずこの映画、映画と呼んでいいのか戸惑う。言うなれば『良い暮らしカタログ』または『田舎暮らしマニュアル』それか『オシャレなDASH村

とにかく話がないに等しい。やまなし、おちなし、いみなし、からホモっけを抜いた正真正銘のやおい

これに比べたら『モラトリアムたま子』なんてドラマチック!

それほどにドラマというドラマはなにもない。ひたすら農村の暮らしを切り取っていくだけ、橋本愛が料理を作って美味そうに食べるだけ。

なのに狂おしく愛おしい。

 

題名に『夏/秋』とあるように、今作は『夏秋』ではなく、夏と秋でそれぞれ一本の映画ということになっている。だから『夏』が終わるときっちりエンドロールが流れる。そして次にはまた『松竹』の会社ロゴが出てきて『秋』が始まる。変な映画。

その辺りは上映前に注意がされていたのだけど、ちょっと遅れて入ってきた前の席のおばちゃんは『夏』が終わった時点で帰ろうとしていたので「まだ次がありますよ」と帰宅するのを制止した。

ボクがこの映画世界にのめり込んだのはまさにこの変則的な上映スタイルで『秋』が始まる辺りだった。

この頃になると、もうドラマなんてなくていいからいつまでもいつまでも彼女の生活を観ていたくなっている。

 

映画という基準で評価してしまえば、そりゃダメ映画だと思う。なんだけどスクリーンで観ないとこの魅力が弱まってしまう。だからこれは映画なんだけど映画じゃない『何か』としか言い様がない。

とは言え次回の『冬/春』に向けて展開らしい展開も用意されてはいるので、その辺りがどのように転がっていくのかが楽しみでもある。

 

でも実を言うと個人的にはこのドラマ展開はなくても、それはそれで良かった。そうして春夏秋冬が完全に閉じた円環構造として成立すればどの季節から観ても良くなるし、延々と見続けることができるから。いっそそうしてしまえばカルト映画として違う評価も夢じゃなかったはず。

次回の『冬/春』上映の際はぜひ夏から4作連続上映してほしい。シートに腰掛けてただひたすらに浸るだけ。ハラハラ・ドキドキもなく、淡々とただスクリーンを観るだけ。

そしたらもう一日中そこで過ごしちゃうよ。