The Kids Are All Right

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映画「キッズ・オールライト」 10年 米
監督:リサ・チョロデンコ
主演:アネット・ベニング
   ジュリアン・ムーア


カリフォルニアに住むある一軒の家庭。18歳で次の秋から大学へ行くジョニ(ミア・ワシコウスカ)と15歳のレイザー(ジョシュ・ハッチャーソン)姉弟は二人の母親と暮らしている。
二人の母親ニック(アネット・ベニング)とジュールス(ジュリアン・ムーア)はそれぞれ同じ精子ドナーから子供を産んだレズビアンのカップルだ。
ある日、レイザーは18歳になった姉に相談を持ちかけた。「僕たちのお父さんに会ってみたい」法律では18歳になれば子供からの希望に応じて精子提供者と連絡を取ることができるからだ。両親に余計な心配をかけまいと秘密裏に精子提供者であるポール(マーク・ラファロ)と会う約束を取り付けた二人はついに生物学上の父親と面会を果たす。


懐の深い映画だ。
この作品は観客がそれぞれ登場人物の誰にでも自由に共感もしくは反感を持てるように精緻に制作されている。
どのキャラクターも等しく愛おしさに溢れており等しく身勝手で愚かだ。
いわゆる”いいもん””わるいもん”が明確に設定されていないため、あなたがどんな風に考えどんな経験を経て劇場へたどり着いたのかによって肩入れしたくなるキャラクターが面白いほど変わるだろう。
設定はまさにカリフォルニア。今作はレズビアンで家庭を持つことや、そもそもレズビアンであることに対する葛藤、そんな両親を持った子供達の苦悩なんてものは描かれない。そんな些細なことは最早ここでは問題ではない。この家庭が潜在的に抱えている悩みや不満は全く持って一般的な家庭のそれと同じなのだ。もちろん、だからと言ってレズビアンカップルであるという今作の設定がただの話題性で終わるわけではない。
例えばニックは医者として一家を食わせるために働いているいわば家父長的な存在。だからこそ彼女は精子提供者であるポールが子供達と交流をもったり、家族と交わることにひどく嫌悪感がある。父親として外敵から家族を守ろうとする防衛本能と、いくら父親として振る舞っても超えられない絶対的な男と女の差異に怯えるからだ。ここは性別なんかではなく役割が人の行動を左右するという極めてリアリスティックな人間の一側面と、役割という後天的な決断では太刀打ちでいない先天的で絶対的な生き物としてのリアリズムが交差する極めてテーマ性の強い描写だ。そしてこれはやはり今作だからこそ可能だったシーン。
また、この夏を最後に家族と離れて大学へ行く18歳のジョニのアドレッセンス(思春期)ものとしても素晴らしい出来。ジョニを演じるミア・ワシコウスカは昨年世界中で大ヒットしたアリス・イン・ワンダーランドで主人公のアリスを演じていたが、そのときはあの気怠そうで終始不機嫌な出で立ちに全く惹かれなかった。しかし今作はその出で立ちが役柄にそのままフィットしていてかなり好感。最初は弟ほど乗り気じゃなかったポールとの面会だったが、会ってみるとずっと憧れていた父性を彼に感じて薄くにやけてしまうところや、幼なじみで片思いの男に女として見てもらえない事に対する焦りと誘惑したくて投げ続ける濡れた視線など18歳の微妙な気持ちの揺れがこちらにも手に取るように伝わってこちらまでじれったくなってしまった(笑)
そのほかにも今作は不運なメキシコ系労働者のくだりとか笑えるところも多いし、ポールの経営するレストランで働く女性(ヤヤ・ダコスタ)がものすごく綺麗(なんか最近映画の感想でこんなことばっか言ってる・・)なんていう最高の見どころもありで、マジで超オススメですっ!