Heartbreak Ridge

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映画「ハートブレイク・リッジ 勝利の戦場」 86年 米
監督:クリント・イーストウッド
主演:クリント・イーストウッド


アメリカ海兵隊の古参一等軍曹であるトム(クリント・イーストウッド)は朝鮮戦争ヴェトナム戦争と歴戦を重ねたベテラン兵であったが
近頃の平和に弛緩した世間では居場所を失いつつあった。
そんな折、トムは以前に赴任していた第二海兵師団第二偵察大隊第二偵察小隊へ舞い戻ることとなった。
喜び勇んで現場へと赴いたトムは、しかしながら昔とは似ても似つかない軍の現状に我慢がならなかった。
そこでは軍紀や書類ばかりを重んじる高級士官がトップに君臨し、トムの受け持った第二偵察小隊はみなおよそ軍人とは思えない乱れっぷりで遊びほうけていた。
第二海兵師団のお荷物と化していた第二偵察小隊を叩き直す。そう誓ったトムは厳しい態度で若い海兵隊員と接していく。
少しずつ軍人としての自覚を取り戻していく第二偵察小隊の面々。
そんな時、カリブ海に浮かぶグレナダ島で武装蜂起があり現地で取り残されたアメリカ人学生達を救うべく第二海兵師団は現地へと派遣されることになった…。


この映画は大きく3つのパートに分けられる。
一つ目は古いタイプの軍人であるトムと現在社会との軋轢。そしてそんなトムが第二海兵師団へと着任するまで。
二つ目は第二偵察小隊のだらけきった若い海兵隊員達との軋轢。そして彼らの再生。
三つ目は実戦。
クライマックスは当然、最後のパートになるわけだがこの映画の肝はなんと言っても厳しい師とそれに反発しながらもやがて更生していく若い海兵隊員達の成長の流れ。
映画的な云々よりも、僕はただ「人間には完全に腐っている奴はいない」のだと強く思った。
ある集団において斜に構えて腐ってしまっている人たちは決して彼らが初めからそんな傾向をもっているのではなく、彼らを強く引っ張ってくれる師や、熱くなれる何かに出会えていない、
もしくは集団内の役割としていわゆる負け組を演じざるを得ない状況においやられてしまっているだけなのではないだろうか。
負けっぱなしの日々は確実に人を蝕んでいく。初めはそれに対抗しようと情熱を燃やしてもやがて馬鹿らしくなり、一生懸命なんてかっこ悪いという逃避に走ることで自分を慰めるしか出来なくなる。
でもそんな人間は自分のことが信じられないだけなのだ。
だからそんな自分を叩き直して欲しいと心の底では叫びながら願い求めている。
僕はこの映画で絶対的な人間の肯定を確信した。
イーストウッドの映画は男根主義的な側面が強調されがちだけれど、人間一般の生き方を描いているだけだとしか思えない。
男だろうが女だろうが強く信念を持ち、挑戦を続けていく姿勢が美しく生きるということではないか。
ミリオンダラー・ベイビーの崇高さはまさに女性のそんな美しさを描いたからだろうし、今作がなぜあんなに爽やかに幕引きが出来たのかの理由もまさにそこにあるだろう。
80年代イーストウッド作品では珠玉の一品。