男性陣はハンカチの用意を。映画『マイ・インターン』感想。

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映画『マイ・インターン』(原題:The Intern)

監督:ナンシー・マイヤーズ

主演:ロバート・デ・ニーロ アン・ハサウェイ

wwws.warnerbros.co.jp


映画『マイ・インターン』予告編(120秒)【HD】2015年10月10日公開 - YouTube

 

アン・ハサウェイが新興のアパレル会社のトップという、『プラダを着た悪魔』が逆さまになったような狙いすましたキャスティングや設定はよしとして『わたしを救ってくれたのは、40歳年上の”新人(インターン)”』(YouTubeの紹介文より抜粋)と聞くと「そりゃあないよぉ」とちょっと鼻白んでしまう。

この手の映画のストーリーは大体お決まりだ。時代遅れの人間がはじめは新世代の価値観や文化と相容れず互いに反目しあうもやがてお互いの長所を認め合い、いつしか理解を深めていく・・・。それが今回、現役引退をした老人がインターンになるという力技できたのだから、そのあまりの無理筋にまずは白けてしまったのだ。

このような物語の構造が悪いわけではない。ある程度展開が読めるからこそ共通の構造の中に散りばめられる差異を楽しむことができるし、往々にしてそれが時代を反映しているから後に見直すと良い文化的な記録になる。

この手の作品で記憶に残っているのは、このブログでも紹介した『インターンシップ』という映画だ。

 

zuihitsu20.hatenablog.com

 

奇しくも同じインターンを描いているこの映画が、新旧世代の対立という話を主軸にしながらも新鮮味にあふれていたのは、なにを置いても現代最高の職場と言われるグーグルが舞台となっていることに尽きる。

 

それでは今回取り上げるこの映画はどうかと言うと、実はこの『マイ・インターン』は新旧世代の対立にはまったく興味を示していなかった。デ・ニーロ扮する70歳のインターン生・ベンは入社早々に同僚に溶け込み、誰からも好かれるし頼られる。この世界は彼に優しい。

では誰に厳しいのか。そう、この映画が描いているのは働く女性、それも起業家であり経営者となったキャリアを邁進する女性の姿だったのだ。

 

しかし、本作でアン・ハサウェイが演じるジュールズはミラン*1とは決定的に違う。

物語の舞台がファッション誌の編集部から、アパレルのEコマース企業に変わったように、ミランダ的なキャリアウーマンも今の世では前時代的なのだろう。単純に世代間の違いだけでは片付けてはいけないけれど、傾向としていま30代前半から中盤くらいのジュールズ世代はもはや髪の毛も目尻も吊り上げて仕事に打ち込むような生き方は求めていないだろう。

 

 そのような時代の些細な変化を消化するためにも、いちどリタイアした老人という必ずしも物語的な成長を必要としない客観的な人物を主役に据えたのは映画的必然だったと観た後には感じられる。

例えばこれが微妙に現役感を感じさせる年代のまだ油っこさのあるオジサンだとうまくいかなかったことは映画を見れば明白だ。そしてアン・ハサウェイが旧来的な、まさにミランダのような女性上司だとしても成立しなかったわけで、この時代だからこそ成立した映画という評価がふさわしい。

つまりいま見に行くことにこそ価値のある映画ということ。

 

若い男性諸氏にとって観ていて耳が痛くなるのは劇中でジュールズが職場の若者たちに酔っ払って絡んだときのセリフだ。

ここはさりげないけれどいまの男女について非常に的確な批評になっている。とりあえずまずはハンカチを携帯することからはじめよう。

それは決してデ・ニーロに男泣きさせられるという意味ではない。けれど隣の席に座る見知らぬ女性(またはあなたの連れ合い)は泣いてしまうかもしれないから。

 

 

*1:プラダを着た悪魔』でメリル・ストリープが演じた鬼編集長。怖い。