ピカソは本当に偉いのか?

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ピカソの絵って上手い(美しい)の?
なんでこんなに評価が高いの?
なんであんなに高値になるの?


一度でもこんな疑問を持った方に朗報!
この本に答えが書いてあります。


ピカソは本当に偉いのか? (新潮新書)

ピカソは本当に偉いのか? (新潮新書)


でもせっかくなんでここで答えを開陳してしまいましょう。


まずはこの質問。
ピカソの絵って上手い(美しい)の?」
ピカソは絵が上手いです。それも抜群に。美しくはありません。でも、ある見方に立つと非常に美しくなります。


次の質問。
「なんでこんなに評価が高いの?」
評価が高くなるようにピカソが描いているからです。


最後の質問。
「なんであんなに高値になるの?」
時流に乗ったからです。


著者の西岡文彦さんはこれまでにも従来になかった視点から芸術、おもに西洋絵画についての論考を著されています。
高尚(と思われがち)な絵画を愛とエロスをテーマに世俗なものとして語り直したこちらを読むと、いつしか芸術を通して人間が見えてくる。西岡さんの本はいつもそうやって芸術に明るくない僕にもなにか分かったかもしれない、という一筋の光を見せてくれます。


絶頂美術館

絶頂美術館


そんな著者が今回テーマにしたのがピカソ。歴史上最も有名かつ偉大な芸術家と言っても過言ではないでしょう。
金銭的評価が芸術的評価と必ずしもイコールではないとしても、ピカソの作品が一般的な芸術作品に比べて「異常」なまでの高値で取引されていることからも、その評価の高さが並ではないと言えます。
2010年にロンドンの老舗オークション会社クリスティーズに出品された「ヌード、観葉植物と胸像」の落札価格は100億円。
この作品の大きさはおよそ2平米なので1平米あたり50億円の価値が付いたことになり、これは日本の都心一等地の地価が1平米あたりおよそ2千5百万円であることを考えると、もはや「どうかしてる」としか言えない高価格です。


それではなぜピカソの作品はこれほどまでに価値が高いのか。そんな当たり前の疑問に対して著者は、芸術的価値・歴史的価値・資産的価値の3つから上に書いたような結論を導き出しています。


詳しくはとうぜんこの本を読んで確かめてもらいたいのですが、驚かされるのはピカソの卓越した時代を読む力。
なかでも新しい商売としての画商の勃興を巧みに利用した彼のビジネスの才には眼を見張るものがあります。
そこに加えて時代が味方しました。美術はピカソの出現する少し前まではまだ用途を備えた工芸品でしかありませんでした。しかしフランス革命を経て上流階級から一般市民へそれらが開放されたときに初めて美術はそれ自体が「自分語り」をする芸術としての価値を認められるようになったのです。


つまり、幼い頃から修練を重ねたピカソの絵描きとしての圧倒的な実力。画商システムによって財政的な基盤を確立したことでリミッターのない表現に挑戦することができた環境。芸術という概念が西洋に広く浸透し、芸術家という職業が尊敬に値するようになった時代。
これらの要素がまさに奇跡的な融合を果たしたことでピカソは「私が紙にツバを吐けば、額縁に入れられ偉大な芸術として売りに出されるだろう」と豪語するほどの成功を収めることができたのです。


本書は上記の考察をピカソ最大の問題作「アヴィニョンの娘たち」を題材に、西洋の近代史から現代のアートビジネスまでを網羅しつつ語る意欲作です。
これで680円(税別)
ピカソにツバを吐きかけてもらってもっと高値になっても満足できる一冊です。