Rokkashomura Rhapsody

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映画「六ヶ所村ラプソディー」 日 06年
監督:鎌仲ひとみ


ロッカショムラ。口に出して見るとなんて心地の良い響きだろう。なにか記号的なおもむきを感じる。
そして、それが皮肉にもこの村を僕の中で「なんとなく聞いたことがある」という記号的存在にしかしなかった。この映画を見るまでは。
この映画は核のエネルギー利用というビジネスにまつわる正負を冷静に問いかける。
同時になにかが起きるまでは都合の悪いことを見なかったこと聞かなかったことにするクセを持った僕のような人間にも様々なことを問い直させてくれる。
311より新しい世界では反原発脱原発の運動がひきもきらない。
しかしそれは311より古い世界にもちゃんとあったのだ。


菊川慶子さんは核に頼らない村をめざしてチューリップ園を営みながら反核運動を10年以上にわたって行っている。
その姿は何の変哲もない中年の女性そのもので、話すそぶりや仕草にもなんら一般の女性と変わったところはない。
しかし彼女は核に対して反対の姿勢を示し声を上げているというその一点のために「誰に金をもらっているんだ」「お前はアカだ」と言われもない中傷を受けている。
じっさいインタビューの中で平然と上記のような刺激的な言葉を口にする菊川さんはそれはそれでちょっと狂気を感じさせるが、もちろん彼女は誰に援助を受けるでもなく自らの意志で反核をしている。
「無理はせず自分の出来る範囲で行動するの」劇中なんども菊川さんは言う。


苫米地ヤス子さんは六ヶ所村のとなりにある十和田市で完全無農薬の米作りを行っている。
農薬を使わないことで手間はかかるし取れ高は少なくなるが収穫されるお米の品質の良さにはぜったいの自信があり応援してくれる顧客もいる。
しかしすぐそばに核の再処理工場が建設されたことから米作りに暗雲がたちこめる。
工場が稼働すれば近隣に微量とは言え放射性物質がまき散らされるのは明確だ。
たとえ農薬を使わない米作りをしたところで降り注ぐ放射性物質は防ぎようもない。
苫米地さんはお米を買ってくれる人に正直であろうとすればその事実を伝えざるをえず、正直になればなるほど誰も米を買ってくれなくなるというジレンマを抱える。
大切なお米のために、苫米地さんは工場の稼働に反対する。
苫米地さんを駆り立てたのはそれだけではない。
「あるひとに言われたの。『この問題に中立はないよ』って。よく考えてみて、中立って言うのは、いい言葉なんだけど、 核燃に関しては賛成と反対しかないんだよ。 中立って言うのは賛成なんだよ。 反対って言わないし、行動もしないし、なーんにもしないでしょ。 原燃がやってることをただただ、見てるだけ、 見てるって事は、容認してるわけで、賛成派なんだよ。 中立が、一番楽なんだよ。」



六ヶ所村には産業がなく、核の再処理工場が雇用を生み出しているという理屈に一定の理解はある。
だからこそただ「反対」というだけでは問題解決への道は開かないと感じた。
工場の稼働がなくても住民が子供を産み育てられるための収入を確保できること、そして核エネルギーに替わるエネルギーの確保、なにより過剰なエネルギー消費になれきった現代の生活を見直すことがまず僕たちにできることだ。
たまに東京に行くと駅がむかしより暗くなっていることに気がつく。しかしそれは暗いのではなく今までが明るすぎたのだ。
昨日スタバに入ってお茶を飲んだ。うだるような暑さの街から空調の効いた店に入るととても心地よい。しかし席について10分もすると店は涼しいのではなく寒いということに気がつく。体調が壊れそうなほど店を冷たくする必要がどこにあるのだろうか。
大きなプラカードをかかげてデモに参加したり、東電まで押しかけて関係者を問い詰めたりしなければ原発に反対できないわけではない。
それよりもひとりひとりが少しずつ意識的になって自分の生活を見直すことがまずはなにより肝心なのではないだろうか。
それからもう一歩前に進みたければまずは自分で情報を集めてみよう。そしてそれを周りの人に広めてみよう。


今作の後日譚として制作された「六ヶ所村通信no.4」には海を放射性物質から守ろうとするサーファーの一団が出てきた。
代表者が県の職員に工場の安全性について問い詰めるも返答は「専門家が安全と言っている」の一点張り。
放射能が生態に及ぼす影響については看視する機能すら考えていないことも明らかになる。
「何かが起きたらどうするんですか?何か起きてから考えるのではなく、さきに考えてからでもいいじゃないですか」この訴えに職員は口をつぐんでしまう。
一事が万事こうだったのかな。その場がよければあとは無根拠の楽観主義もしくは思考停止で危険なビジネスを推し進めていたのかな。
無関心のままではこんなこともわからないままだったね。



六ヶ所村ラプソディー [DVD]

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