新・のび太と鉄人兵団 〜はばたけ天使たち〜

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監督:寺本幸代
原作:藤子・F・不二雄


北極で、巨大なロボットの足と謎の青い球体を拾ってきたのび太。その青い球体に導かれるように、なんと次々とロボットの部品が家の庭に降ってきた!
ドラえもんのび太は「鏡面世界」で部品を組み立て、巨大ロボット「ザンダクロス」を完成させる。ところが、のび太の街にロボットの持ち主だと名乗る「リルル」という不思議な女の子が現れる。
実は「ザンダクロス」と「リルル」はロボットの星「メカトピア」から地球人を奴隷にするために送り込まれたのだった…。果たして、ドラえもんのび太たちは、地球を救えるのかー。
from 公式ページ

1986年に公開された「のび太と鉄人兵団」を新キャストによって再制作した今作。
オリジナルの鉄人兵団は甲本ヒロトクロマニヨンズ)が絶賛しているので見た人も多いかもしれない。
神の存在、宗教への盲信、支配者層と被支配者層の成立、平等という理念に潜む暴力のアウトソース。
子供向け映画でこんなテーマ?と思われるかもしれないが、この鉄人兵団はこれらのテーマを見事、物語に昇華してそれに打ち勝つ力として「思いやり」という一言を叩きつけた快作だった。
その鉄人兵団がリメイクされた。
オリジナルはしずかとミクロスとリルルの映画だった。今作はそれがしずかとリルル、そしてのび太ジュドーの映画になった。
まずオリジナルで大活躍したミクロスについて言及しておこう。
ミクロスはスネ夫が持っているラジコンロボット。途中からドラえもんの道具で意志を持った存在として鉄人兵団との戦いに参加する。
性格は臆病でドジ。そんな役立たずの彼が物語上で果たす役目は大きい。それは徐々に人間的感情を手に入れていくリルルに対してもとは一介のラジコンでしかない機械の彼が最後まで感情を持てないという存在でいることだ。
だからこそオリジナルの最後で彼がつぶやく「僕にも、涙の出る装置が欲しい」という言葉がわれわれ人間の持つ感情の尊さを浮き出してくれた。
そのミクロスが今回はいない。当然例のセリフもない。
かわりに物語の主軸になったのはオリジナルでは不思議な球体として少しだけセリフを与えられていただけのジュドーだ。
巨大ロボット(ザンダクロス)の頭脳というジュドーがクローズアップされた今作が目指したのはオリジナルでは少し描写の弱かったリルルの、のび太達と間に芽生える親密感と故郷メガトピアから与えられた使命に揺れる苦悩、を掘り下げるということに尽きるだろう。
そして彼が果たす役割はもう一つある。それはボーリング球という見かけでしかない彼がドラえもんの道具によって愛しやすいヒヨコのような姿に変身したことでも明白だ。
つまり古くさいロボット然としたミクロス(ザンダクロスも)では果たせない親しみやすいキャラを作品に追加するということ。おそらくこれが現代的な娯楽作品にはかかせないポイントのようだ。なんせ今作はジュドーをのぞけばマスコット的な存在は主人公のドラえもんしかおらず、ほかにキャラ的な存在はと言えばメガトピアから来る見るもおぞましい鉄人ばかり。
実際、ジュドーがヒヨコに変身した瞬間に劇場内の子供達から上がった歓声は凄まじかった。
ジュドーのび太と友情を築いていくことで、しずかに対して素直になれないリルルの葛藤と孤独感が強調されたのは今作の変更点が上手く機能した好例だろう。特にリルルとジュドーの関係を示すエピソードがよりリルルという存在に観客の同情を誘っており、その点は文句なく良かった。
今作はオリジナルのルックを今の技術で見やすく改善しただけのお手軽リメイクではなく、新しい切り口、新しい描写もふんだんに織り込まれたもう一つの鉄人兵団と呼んで差し支えないだろう。
オリジナルが好きならば間違いなく見ておいた方が良いと思う。オススメだ。


以上を踏まえて、あえて言わせてもらう。


俺はミクロスがすきなんだよぉぉぉ!!!!