51 Birch Street

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映画「バーチ通り51番地 〜理想の両親が隠した秘密〜」 05年 米
監督:Doug Block


仲睦まじい夫婦だと、家族の誰もが信じていた父と母。だが母がこの世を去ってすぐに、父は別の女性と結婚してしまう。年老いた両親はなぜ夫婦でいられたのか?母が遺した日記に記されていた残酷な真実とは・・。結婚とは、愛とは何なのかと、観る者全てに問いかける作品。
from 松島・町山 未公開映画際HP


郊外に建つ一軒家。父親は働きに出て母親は家事に専念する。子供達は同じような家庭環境で育ってきた者同士が集まって均質な教育を受ける。ガレージには大きな車。テレビや洗濯機は生活に豊かさと利便性を与えていた。
50年代のアメリカン・ファミリーは幸せの象徴として多くの人に羨望のまなざしを向けられた。
80年代に入り多様な価値観が古き良きアメリカの生活を蝕み始めると当時の大統領であったロナルド・レーガンは50年代のfamily valueを取り戻そうと訴えかけたほどだ。
この映画はそんな古き良きアメリカの家庭を死別するまで体現し続けた両親のことを監督自身が記録したもの。
しかしこの両親の歴史を掘り返せば掘り返すほど昔は良かったという幻想はもろくも打ち砕かれていく。
妻を失い一人になった父親はそのわずか数ヶ月後に他の女性と結婚してしまうし、貞淑を守り夫と死ぬまで添い遂げた母親の日記には生々しく痛々しいほど「女」としての苦悩が綴られてしまうのだ。
理由は言うまでもない。人間は今も昔も愛に飢えており、その欲求を押さえ込んでいたのは当時の人々の理性の高さではなく社会的な制度の不備だっただけなのだ。
当時に比べて今は離婚率が高いことが問題になっている。それは現代の大人達が昔に比べて忍耐強くないからではない。今は離婚を選択しても女性が困らない制度が確立していることが原因の根底にある。
そしてもう一点、女性が社会進出を果たし、女性の人間性が広く認められたこともこの状況の建設に大きく寄与している。
女性の人間性なんて大袈裟な言葉かもしれないが、保守的なキリスト教の価値観のもとで女性はその尊厳をある一面において長らく圧迫されてきた。
人間の性行為に関する意識をまとめたキンゼイレポートの当時の人々にもたらした衝撃がその事実を担保するだろう。
現代社会の問題を分析・論評するさいに、または年配者の小言としてしばしば持ち出される「最近の若者は」的言説。
これがいかに的外れで本質を曇らせてしまう紋切り型の発言であるか。
この映画は一組の夫婦を描きながら同時に人間の振る舞いがもつ根源的な変わらなさをわからせてくれる。