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映画「ステロイド合衆国」 08’米

監督:Chris Bell(クリス・ベル)

アーノルド・シュワルツェネガー、ハルク・ホーガン、シルヴェスタ・スタローン等に憧れ、ステロイドを使用し続けている監督自身の兄と弟のエピソード。
また、プロスポーツ選手や医療係のエキスパートたちへのステロイドに関するインタビューを通して進行するドキュメンタリー。
ステロイドの使用はアメリカ社会を反映している」という真実を暴く。
from 松島・町山 未公開映画祭HP

どことなくDaft Punkを彷彿とさせるタイトルが原題の映画だが、本編にそんなスタイリッシュ要素は一切ない。
それどころか登場人物は幼い頃にデブ・チビ・バカという非モテ三冠王を共同で獲得した3兄弟。
このままでは永遠に日の目を見られないはずだった彼らを救った存在それがハルク・ホーガンだった。
そんなキャッチー過ぎる話しから始まるこの映画、しかしその実はとても深刻なアメリカに巣くう病理を克明に描いている。


この映画が追うのは監督であるクリスの兄弟、要は何の変哲もない普通のアメリカ人だ。
だからこそこの映画はアメリカに根付く問題の根深さを知らしめてくれる。
小さい頃の反動か今ではすっかりムキムキの体を手にした兄と弟。
しかし彼らはそれでは飽きたらずステロイドに手を染める。
兄は夢だったプロレスラーを諦めきれずに。弟はベンチプレスのチャンピオンになるために。
けれどクスリを使ってまでそれらを手にして一体どうなる?
確かにステロイドは一般に言われているような危険性は実のところ少ない。
だが、大切な妻や子供達を悲しませてまで固執しなければならない理由は何だ?
その疑問に答えを見つけるべく3兄弟の真ん中に育ったクリスはカメラをまわす。
そこで彼がたどり着いたのはアメリカの醒めない夢。
「我々はもっともっと大きく、強く、早くなれる」
選ばれた一握りの人間だけでなく、市井の隅々にまで浸透するこの信仰。
その信仰にせき立てられて彼らは自分以上の自分を作り上げようとする。クスリの力で。


レーガン政権下で超大国への道を駆け上がっていた80年代のアメリカ。
その象徴がホーガンであり、シュワちゃんであり、スタローンに代表される鍛え上げられた肉体だった。
しかしその肉体は筋肉増強材であるステロイドによって担保されていたため、その事実が判明したとき国民の落胆は凄まじかった。
ステロイド問題に国中が沸いていたのとほぼ同じ時期、それと呼応するようにアメリカ経済も崩壊した。
サブプライム問題に端を発したリーマン・ショックの原因はありもしない価値をでっちあげて、いわばステロイド漬けで無理矢理に膨らませた資産の暴落だった。
アメリカの成長の裏には常にドーピングがつきまとっていることをこの映画は告発している。