いろいろ映画

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この週末は一気に映画を4作、それもかなり良い作品ばかりを見ました。


映画「SRサイタマノラッパー」 09年 日本
監督:入江悠
主演:駒木根隆介


自主制作映画という形で作られた今作はサイタマのフクヤ市というスタジオもなければレコード屋すらない地方都市でなんとラッパーを夢見てしまった若者達の苦悩と成長を描いた力作。
とにかく主人公達が直面する気まずさが本当に気まずくて、それはとりもなおさずアメリカから輸入された文化であるラップ(もしくはヒップホップ)という異物を閉鎖的で保守的な地方都市で行うからに他ならない。
この映画はその地方が内包する排他的な性格をユーモアも交えて描いている。
主人公のIKKUが所属するSho-Gungというラップグループが”地方で頑張る若者”というオトナ達が大好きな名目の下に市役所へ招かれラップを披露させられるシーンなどはとことん笑えるのだけれど、同時にとても恐ろしい。
オトナ達が求める”地方で頑張る若者”というのはわけのわからん格好をしてわけのわからん言葉で非現実的なメッセージを吐き出す若者ではなく、彼らに従順で彼らの想定の範囲を超えない生き物でしかないということが明らかにされてしまうのだ。
ラストシーンでは一度は現実に取り込まれそうになった彼らがギリギリの状態で吐き出すライムの切迫感と熱いメッセージに心が揺さぶられた。
予算の少なさや、無名の出演者とかネガティブに聞こえる全てがポジティブに反転したことで生まれたピカピカに輝いている映画だった。



映画「SRサイタマノラッパー2 女子ラッパー 傷だらけのライム」 10年 日本
監督:入江悠
主演:山田真歩


前作SRサイタマノラッパーが2009年の第19回ゆうばり国際ファンタスティック映画祭オフシアター・コンペティション部門でグランプリを獲得し、そのグランプリの副賞である次回作支援で制作された作品。
前作がラップミュージックという文化が日本の、特に地方において抱える居心地の悪さを描いていたのに対して今作ではその部分への描写はあまりなく、群馬県の小さな町に住む20代後半の女性達が抱える鬱屈や苦悩に焦点が当てられている。
前作でラッパーとして生きることを決めたIKKUやTOMが出演しているが、本筋とはほとんど絡まない。
物語としてはすっかり骨格ができあがっていて、しっかり主人公達がボロボロに傷ついてしまって地方という温い共同体に飲み込まれそうになったりすると、その現実をぶち壊すかのようにラップのフリースタイルが始まって仲間が絆を深めてジ・エンド。
監督の入江さんはこのサイタマノラッパーをシリーズ化したいとう計画をお持ちなのでこの鉄板ラストを発明したのはとても意味のあることだと思う。
それくらいラストの切迫した人間にしか紡げないライムの応酬は胸に迫る。
次回は栃木が舞台だそう。
大上段に構えるならばこの映画は僕たちの世代にとっての男はつらいよです。アーカイブが溜まる前に見とくことをおすすめします。




映画「ヒックとドラゴン」 10年 米
監督:ディーン・デュボア クリス・サンダース


正直に申し上げます。映画館で予告編を見たときには「あちゃあ、失敗作フラグ立ってるな」と完全にバカにしてました。
しかしその後の評判の高さを聞くだに、「これは見とかないとまずいかも」とすっかり上映規模が小さくなってしまった今になって慌てて見てきました。
結論から言ってしまうと、今年の公開作品では限りなくベストに近い傑作!一応これからのことも考えて謙虚に言ってますが、まあベストだわな。
映画が始まって1分で完全に掴まれて、あとは最後までストーリーの赴くままに心を委ねるだけ。
物語の骨格はアバターや第九地区と同じで、結局最低なのって人間じゃん!という身も蓋もないものなのだけれど、前に挙げた2作にそこまで感情移入できなかった身としては今回のドラゴンがあまりにけなげで可愛いもんだから号泣メーン!!
ドラゴンの生態がまんまネコっていうのは反則ですわ。
3D版は吹き替えのみで不安だったけれど、ヒックの語り口の軽妙さがこれまたいいのよ。
決して軽薄とはいかないくらいに飄々としていて、お涙頂戴にありがちなトゥーマッチに思い詰めた感じもないし、総じて楽しく感動的に見ることが出来ました。
最近、猫も杓子もでやってる3D上映も、このヒックとドラゴンはオマケでやってるようなそれではなくクオリティが高いので、いよいよこの映画はちゃんと映画館に行って見なけりゃだめだぜ!と強くオススメしておきます。



映画「小さな村の小さなダンサー」 09年 豪
監督:ブルース・ベレスフォード
主演:ツォア・チー


毛沢東の妻である江青の肝いりで実施された文化政策の一環でバレエを習うこととなった少年が、山東省の小さな村から北京へ、そして踊りの研修生としてアメリカへ渡り自由に踊ることの出来る幸せを知ったために亡命したという実話を基にした一作。
リー・ツンシンという方の半生を描いているのですが、1980年代の中国を覆っていた共産主義の圧力に屈せず戦い続けた姿勢に胸を打たれました。別に共産主義が良いとか悪いとかではなく、誰かから押しつけられた価値観や理念を鵜呑みにせず自分自身で考え、導き出した答えを大切にするというメッセージに共感したわけです。裏を返せば洗脳に近い政策で人民を縛ろうとする国家とはこれいかに?ということなんですけどね。
この映画で鍵になるのがバレエのシーンであることは明白なのですが、そこは主役のツォア・チーの演技(演舞)が素晴らしい。調べてみると、彼自身がバレエダンサーなのね。そらそうか。そうじゃなきゃあの踊りは出来ないよな。それくらい踊りのシーンだけでもしっかり楽しめます。
後半、亡命が認められてからの展開がちょっと端折りすぎてるのかなと思う節もあったけれど、親子が長い年月を経て再開したシーンでは本日2度目の号泣メーン!!
こちらのブログで紹介されていたので興味を持ったのですが、これはいい出会いでした。