AMERICAN REBEL The life of Clint Eastwood

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イーストウッド文献も、はや3冊目。そして3冊目にして決定版とも言える一冊が出ましたね。


まず本の見た目の時点で「こりゃ大物きたな」という厚さ。
そして次にパラッとページをめくると文字の密度にまたもや圧倒されます。
確実に今までに読んだ2冊とは文章の量が違う。
そして肝心の内容もその量に見合った品質を保証します。


この本の特徴はまずイーストウッドの語りおろしはなく、イーストウッドの発言は基本的に過去の発言の引用だけで構成されているということ。
もともとインタビューを受けることの少ないイーストウッドではありますが、これには初め少しだけがっかり。
しかしながら、これはあとがきでフランス文学者の中条省平氏も指摘していることなのですが、それによってこの本は良い意味でイーストウッドへの遠慮がなく
冷静な観察者としての視点でイーストウッドを捉えておりバイオグラフィーとしての出来は相当に好いです。
まず一番遠慮がないなぁと思ったところはイーストウッド映画の興行面における客観的事実を事細かに当時の批評家達のコメントまでつけて書いているところ。
かなりの後追いでイーストウッドを見ている身としてはリアルタイムでそれぞれの映画が受けた観客やメディアからの反応を知ることが出来るのは単純に面白い。
あの映画はこんなに当たったのかとか、逆にこの映画が全然うけなかったんだという自分の認識とのズレなどがあると、「なるほどなぁ」と自分の映画の好みすら省察出来てしまいます。
まあ「スペース・カウボーイ」と「センチメンタル・アドベンチャー」なんですけどね。


そしてもうひとつイーストウッドを語る上で外せないのは彼の華麗な(?)女性遍歴であることは間違いないと思いますが、その点も本人にとってはあまり触れて欲しくないであろうトピックスだけにこの本の遠慮のなさa.k.a.神の視点が生きてきます。
特にソンドラ・ロックとの愛憎劇というか泥沼の関係にまで落ちていくまでの過程やそれと平行して新たに持つに至る関係などはかなりの読み応え。
これだけ見るとイーストウッドってちょっとどうかしてる、と思う人も出てくるのは必至ですが、この本の著者は淡々と事実を書き記していくだけで彼個人の感情などを挟んだり、いわゆるゴシップ的にこの話題を書き立てて騒いでいる分けではないところもバイオグラフの信頼度を高めています。


しかしこの本を読むとハリウッドで生きることがいかにタフであるのか、そしてその中で多少の曲折はあるものの数十年以上に渡り常にスターであり続けているイーストウッドがいかに特別な存在であるのかを思い知らされます。
それもことごとく多数派や組織が求めるものを蹴ったうえでの現在ですからね。
いつまでも少数派、そしてチャレンジャーであるイーストウッドに改めて敬礼。
大きな愛を感じさせてくれた一冊でした。
少しでもイーストウッドに興味があるならこれが一番オススメです。


クリント・イーストウッド―ハリウッド最後の伝説

クリント・イーストウッド―ハリウッド最後の伝説