アバクロの半裸モデル使用の終了に寄せて、映画『ネイバーズ』
CNNより入電っ!!
日本にアバクロが乗り入れてくるずっと前、アメリカで初めてアバクロを見た時に脳裏に浮かんだ言葉は「カルチャーショック」だった。
商品の見やすさよりも雰囲気を重視した暗い室内照明。
近づくもの全てに襲いかかる強烈な香水の香り。
まともに会話もできないほどに耳をつんざくダンス・ミュージックの重低音。
そしてなにより、店の前に半裸のマッチョが立っているのはどういうわけだ!入りづらいじゃないか!
極東の島国より来たりし少年には不可解なことだらけの光景だったが店に入る人々は男性はもちろん、うら若き乙女たちさえ当たり前の顔をして入店していく、いや、なんなら素敵な笑みをその半裸のマッチョに投げかけてさえいるのだ!
「オレの……完敗だ……」
それまで『マッチョ=嘲笑の対象』という図式で育ってきたわたしにとって、その光景は単なるカルチャーショックを越えてもはやコペルニクス的転回とも言うべき強烈な体験であった。
その後アメリカ的価値観に染まったわたしはゴールドジムで週3回のハードなウェイトトレーニングを敢行し、鶏ササミと卵白のみを摂取する生活を続けた。あまりの苦行に挫けそうになったときには『コナン・ザ・グレート』と『ランボー』をリピート再生することで乗り切ったものだ。
やがて本場のカウガールからもすれ違いざまに「Wow」と感嘆の声をもらうまでにパンプした胸筋を獲得した頃、わたしは再び強烈なパンチをお見舞いされることになる。
それは『ネイバーズ』という映画を見た時のことだった。
セス・ローゲン演じる主人公の男とローズ・バーン演じるその妻は子供の誕生を機に静かな郊外の家を購入した。刺激に満ちた都会の生活よりも平穏な暮らしを優先するための決断だった。
しかし彼らが新しい暮らしを開始するとすぐに隣家に新たな住人がやってきた。
夜毎乱痴気騒ぎをしては騒音をまき散らすフラタニティの男たちがお隣さんではせっかく郊外に越した意味が無いと若い夫婦は「小さな子供に配慮を」と、前もって彼らに釘を差す。
しかしボタンの掛け違いからこの夫婦とフラタニティは骨肉の争いを巻き起こすことになるのだった。
ネイバーズ -Bad Neighbours- - YouTube
この映画の中でザック・エフロン演じるフラタニティのリーダーは典型的な『ジョックス』だ。
つまりイケメンのスポーツマンでセックスの匂いに溢れ、周りにはいつも金髪ギャルを従えいてる。そしてなにより彼はマッチョだ。半端じゃないほどのな。
これだけなら言うことはない。オレもこのままマッチョ街道を驀進する決意を新たにしたことだろう。しかしオンナと遊ぶことと筋肉の維持にしか興味のない彼は、実は密かに勉強もしていた他のフラタニティメンバーが続々と堅い仕事を見つけていく中、ひとり取り残されてしまうのだ。
そしてそんな彼がようやく手にした仕事、それがアバクロの店頭に立つ半裸のマッチョだった……。
この映画を見終わったとき、オレは世界が音を立てて崩れていくのを感じた。
オレのドリームワーク、半裸のマッチョ。
しかしそれは見掛けだけのバカに与えられたアメリカンドリームの残滓に過ぎなかったのだ。
そして今やその仕事さえも消滅するというではないか。
ロボットの活用が促進されることで現在の仕事の多くが無くなってしまうだろうと識者が警鐘を鳴らす2015年・春。まさかロボットとは無関係にこうしてひとつの職業が消え去る様を目の当たりにするとは思わなかった。
R.I.P半裸のマッチョ。あなたの勇姿をオレは忘れない。
〜エピローグ〜
そしてオレはいまムダに隆起した胸筋を窮屈なシャツとスーツに押し込めて2本の人差し指をぎこちなく動かしながらエクセル入力に勤しむのだった。(映画『サボタージュ』のシュワちゃん参照)