読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

Before Midnight

このエントリーをはてなブックマークに追加

映画「ビフォア・ミッドナイト」
監督:リチャード・リンクレイター
主演:イーサン・ホーク
   ジュリー・デルピー




若い二人のいじらしい距離に身悶え必至の『ビフォア・サンライズ』、運命かと思われた出逢いに訪れた長すぎる空白を一足飛びで縮めていく様に万雷の拍手を送った『ビフォア・サンセット』という説明不要の傑作ロマンスシリーズの最新作。
観る側がこの映画に何を求めているかは火を見るより明らかな状況に前作から9年というスパンを経て戻ってきたジェシーセリーヌのふたり、しかし今のふたりは出会った頃のようにロマンスに耽溺するだけで時を過ごすには背負うものが増えすぎていました。
口を開けば皮肉を言ってお互いをなじりあい、しまいには夫婦仲を終わらせかねない大げんかまでするふたり。原因は些細なこと、と言うには勇気のいる話。家事、育児、仕事。人生の大半を支配する日常のことでした。
今作に落胆する人はきっとこのふたりなら結婚して子供を作っても変わらず生涯仲良く暮らすことを望んでいたことでしょう。取りも直さずそれは現実の恋愛関係や夫婦生活が決まって破綻とまではいかずとも、冷えきったものになることが多いことの裏返しです。「この人だけは」と心に決めて熱く愛しあったはずの人なのに心の距離はどんどん遠くなっていく。
だからこそ劇的な出会いと再会で運命的なほどにロマンチックな時を過ごしたふたりには変わらないでいて欲しかった。例えそれがおとぎばなしと分かっていてもそう望んでしまうことはムリありません。
僕だっていまよりもっと若い時分に観ていたらきっと「金返せ」と激昂していたかもしれません。
けれど僕は今作のアプローチを支持します。
言うまでもなく恋愛や結婚の本質は幸せに結ばれることではなく、その関係をどのように維持発展させていくかです。
その視点から逃げずにこの映画と向きあえば、この中で交わされる会話の内容の豊穣さを讃えずにはいられません。
特に映画の前半、ジェシーセリーヌを含む4組の男女が議論をする場面で妙齢の女性が語った話。それまで得意気な顔でユーモアたっぷりに男女の機微について議論していた『若い』面々は、とてもシンプルなそのメッセージに胸を打たれます。本当に大切なことはとても簡単なことなのです。
沈み行く夕日を憂いの表情で眺めていたセリーヌロマンチックな季節の終わりと黄昏ていくだけの未来をそこに重ねたように、この映画とともに時代を生きた人にこそ、これからの人生と向き合うための処方薬としてぜひ鑑賞いただきたいと思います。


*若い人で前2作を見てない人はとりあえずそちらを見て悶絶して、今作は結婚を決めた時にでも見て予習するのがいいかもしれません。(って結婚してない僕が言うのも何ですが。)
でもその時はぜひパートナーとは別にひとりでね。結婚前にこの映画はさすがに盛り下がるので。あくまであなた自身の心構えとして。