2013年上半期映画 その1

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自分でも引くくらい今年は映画を劇場で観ていまして、今の時点ですでに去年1年間で観た本数を超えてしまいました。
これでは年末に1年を振り返った時に紹介できない映画が多く出てしまう恐れがあるので、上半期でいったんベストを出してみるっス。


ちなみに、劇場で公開されていないのでランキングに入れてないですが、実質的にはこれが1位ですね!!


それでは今年劇場公開された中から個人的な上半期トップ10を。


10位 ルビー・スパークス(原題:Ruby Sparks)



主演・ポール・ダノの時点で100点!(ゲタ履かせすぎ)
この映画、ストーリーのベースにあるのがピュグマリオン伝説であることは明白。
で、同じフレームワークで作成されたド定番映画としては「マイ・フェア・レディ」や、そのマイ・フェア・レディをさらに焼き直した「プリティ・ウーマン」などがすでにあるわけです。
おそらく他にも何度となく再生産された物語がそれでもなおフレッシュな輝きを放っているのは、魅力的なヒロインとして映画に華を添えただけでなく、脚本家として作品を現代的にアップデートさせたゾーイ・カザンによるところが大きいと思います。
上にあげた過去の名作(特に後者)がピュグマリオンの物語を男の手前勝手な親切心 aka カメリアコンプレックスの発露というテーマに矮小化しかねないところを、彼女は女性の視点と、なにより現代の知性から、(男女の序列は関係なく)人が人を意のままに操ろうとすることがいかに悲しく空しいことであるかという警告に書き直しているのです。
愛情が一周回って狂気に変わってしまうという悲劇はまさにギリシャ神話的でそんな展開にもシビレました。
舞台となったカリフォルニアの景色を楽しんで、現地のカルチャーにも触れられて、もう言うことなし。


9位 ジャンゴ 繋がれざる者 (原題:Django Unchained)



前作「イングロリアス・バスターズ」で「史実なんて関係ねぇ」とばかりにナチスをぶっ潰して、多くの観客からの快哉を得たタランティーノが次に標的としたのはアメリカ史最大の汚点と言っても過言ではない奴隷制度でした。
せめてフィクションの中だけでも救われたっていいじゃないかと、弱き者、虐げられてきた人々の側に立とうとする姿勢は表現者として圧倒的に正しいと思います。
当時の奴隷制度とそれを下支えしていた白人至上主義の論理がいかに残虐かつデタラメであったかを徹底的なリサーチによって白日のもとに晒したという点でもこの作品は多くの人に観られるだけの理由があります。
って、そんな難しい話も大切なんですが、この映画がなにより最高なのはそんな重厚なテーマを扱っておきながらエンターテイメントとしてとにかく楽しい!というところです。西部劇に欠かせない銃撃戦の描写も素晴らしいですが、会話劇としての面白みたるや今までの彼のフィルモグラフィーの中でもトップクラスではないでしょうか。
この作品で「イングロ〜」に続いて2度目のアカデミー助演男優賞を獲得したクリストフ・ヴァルツが今回も良かった。ポール・ダノに続いてもうこの人でてるだけで100点でしょ!と言いたくなります。


8位 パラノーマン ブライス・ホローの謎 (原題:Para Norman)



3年の製作期間のうち2年をアニメーションの制作に費やしたというストップモーションアニメ作品。その途方も無い労力に敬意を表して8位にランクイン。
もちろん評価の高さはそれだけが理由ではありません。
この映画が伝えるメッセージ、そしてそれを伝える方法が素晴らしかった。
9位のジャンゴで描かれた奴隷制度を代表として人類史とはつまり差別と排除の歴史と言い換えることができるかもしれません。
なぜ人は人を虐げるのか。それは自分を安全圏に置くためです。多数の一員となって自分たちとは違うもの、その差異に線を引く事であちらとこちらに分類する。理解できないもの、不確定の要素を恐れるあまり、そこに線を引いて排除する。またはコントロール下に置くことで安全を確保する。
敵の敵は友というように共通の仮想敵を作ることで利害の一致する第3者との関係を構築するということもあるでしょう。(このあたりの論考は内田樹さんのこの記事が詳しい)

しかし、そのために排除されなければいけなかった人たちはいったいどうなるのか。
ジャンゴが北風のように復讐劇としておとしまえをつけたとすれば、この映画は太陽のように排除した側の人間をも理解し、諭していきます。
わかりあえないこともあることをわかることが理解への第一歩。


7位 セデック・バレ 第一部・太陽旗 第二部・虹の橋



前に感想を書いてあるのでくわしくはこちらを。


第一部を見終わったときの「エラいもん見てもうた・・・」感はいまでも鮮明に思い出せます。第二部ラストでちょっと失速したかなとも思いましたが、それまでが本当に圧巻すぎたし、霧社事件という日台の間に起きた事件をここまで克明に描写した覚悟に親指2本ビン立ちです。



6位 建築学概論



これも前に記事にしております。


宣伝用ポスターのビジュアルと、どうやら初恋ものらしいというぼんやりした前情報だけを頼りに見に行ったせいで思わぬ大ケガをするはめになった危険物件。
あえて打ちのめされたい方には最適かと思います。


長くなったのでつづきは次回。