건축학개론

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映画「建築学概論」
監督:イ・ヨンジュ
出演:オム・テウン&ハン・ガイン&イ・ジェフン&スジ



本国で初恋ブームを巻き起こした!とかそんな触れ込みでプロモーションしてるし、こりゃあ相当な甘酢が期待できるなぁと鼻息荒くして見に行ったわけですよ。そしたらこれ、ぜんぜん甘酸っぱくない!むしろ苦い!苦すぎるよ!おかげで予期せぬ大怪我をしたので、同じように傷を負う人を少しでも減らすためにわたしが鑑賞に際しての心構えを説くべく立ち上がりました。
誤解のないようにはじめに申し上げておきますが、とてもいい映画です。ただちょっとばかし凶悪なためお気をつけくださいと老婆心ながら注意を呼びかけております。
よってネタバレしますので以後お気をつけください。


まずは映画の設定とあらすじを簡単に説明しましょう。
お話は主人公で建築家をしているスンミンのもとにヒロインであるソヨンが現れるところから始まります。ふたりは大学1年生のときに同じ建築学概論の授業を取っていたことで知り合いになるも、それ以来15年間音信不通でした。
とつぜん目の前に現れたソヨンにとまどうスンミンをよそに彼女は故郷のチェジュ島に家を建ててくれと仕事を持ちかけます。
こうして物語は二人のいまと過去を行きつ戻りつしながら15年前のすれ違いの真相に迫っていきます。



この映画がけしからんのは一にも二にもヒロインであるソヨンのファム・ファタールっぷりです。
彼女がどれだけスンミンのこころを弄んだかを列挙すると際限がないのでいちばんヒドイところを挙げましょう。
主人公のスンミンは超がつくくらいに純情でシャイなあんちくしょうです。同じ年のソヨンに話しかけられてキョドるのは当然のことながらしばらく敬語でしか話せずにソヨンからタメ語で話すよう指示されるような男です。
そんな男に女の子の感情の機微とか、本心を推し量るような芸当ができるわけないじゃないですか!
それなのにソヨンときたら、同じ放送部の先輩でスンミンの先輩でもあるイケメンで金持ちの男のことを好きとか公言しつつ、なにかとスンミンに親しくしてくるわけです。


どうしろって言うんだよ!!


音楽専攻の彼女が建築科の授業を取ったのはこの先輩と同じクラスになるためだったので、もともとは先輩に気があったのは確かでしょう。
でも!でもさぁ!そこからスンミンに気持ちが移ったのなら、スンミンの前で先輩と仲良く話したあげく家に誘われてノコノコ付いて行ったりするなよな!
そんなことしたら貧乏で恋愛経験もないスンミンが不戦敗を選ぶことくらいわかんだろ!(ちなみにこの展開にいたるまでに先輩がいかに金持ちで、スンミンが貧乏なのかの描写が不自然ではないやり方できっちりとされているところがこの映画うまいなぁと感心する部分)


ソヨンのファム・ファタールっぷりは大人になってからも変わりません。彼女が15年ぶりにスンミンを訪ねたのは自分の離婚を機にずっと忘れられなかった初恋を掘り起こすためです。
この映画が苦い後味aka絶望感をもたらす一番の理由はここにあります。
言うまでもなく二人は一時期お互いにお互いを好きでした。しかしその想いが伝わることはなく、自分の気持ちが届くことはないと思いつめたスンミンは「二度と目の前に現れないでくれ」と彼女を突き放してしまっていたのです。
そんな苦い初恋のことはすっかり忘れて婚約者と幸せな結婚をしようかというスンミンのまえに現れるソヨン!そして二人にとって決定的な思い出の品である、あるモノを見てしまったスンミンは自分が犯した失敗にいまさらながらに気づかされるのです。
そのおかげでラストシーンでは結婚したスンミンの顔からは一切の生気が抜け落ちているという衝撃映像がスクリーンいっぱいに映し出され、観客はもはや「初恋ええわぁ」なんて甘美な思い出に浸る気にはなれません。



この映画は思春期を思春期たらしめるものは何かについての映画です。
思うに思春期とは素直になれない、傷つくのが怖くて一歩を踏み出せない、相手が傷つくと分かっているのに傷つけずにはいられない状態を指します。
だからこそ人は大人になってからふとした時に「あのときああしていれば」「あのときあんなことをしなければ」と自分の未熟さに甘い痛みを覚えながら思い出に彩られた過去を慈しむのでしょう。
だからこそこの映画が教えてくれた教訓を忘れてはいけません。
思い出は思い出のままにしておくこと。下手に掘り起こすとケガするぞ!ということです。


映画の作りは相当上手いです。
学生時代のエピソードと大人になってからの二人のやりとりがきれいに繋がっていく展開は見事です。
相手には些細な事かもしれなくても片思いをしている男子にとっては人生のハイライトになりうる出来事がこれでもかと押し寄せて、そのあたりには甘酢サービスも織り込まれていると言えます。
しかし結末はもう取り戻せない過ぎ去ってしまったものに絶望するしかない主人公という相当に苦いラストが待っています。
だからこそ切ないし心を鷲づかみにされるのですが、下手するとリンボーに落ちかねません。(インセプションより)


思春期にわすれものがあるあなた、この映画はそんなあなたのための映画です。
ただし、鑑賞にはじゅうぶんな注意をし、容量用法を守って正しく鑑賞ください。