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Trouble with the curve

映画「人生の特等席」
監督:ロバート・ロレンツ
主演:クリント・イーストウッド



御年82歳。
長大なキャリアの突端でいまも現役として毎年のように新作映画を撮り続けている監督イーストウッド
俳優としては08年(日本では09年)に「これで役者としてのキャリアを終える」と宣言して公開されたグラン・トリノがそのフィナーレを飾るにふさわしい内容で多くのファンの涙を絞りとりました。(僕は人生でいちばん泣きました)


だからこそ俳優イーストウッドが帰ってくるという報せを聞いたときは嬉しさと同時に「下手なことしなきゃいいけど」という危惧を持たれた方もいるかも知れません。
実際、先のアメリカ大統領選で共和党のミット・ロムニー候補の集会にゲストで登場したイーストウッドが見せた不可思議な一人芝居は"Eastwooding"という言葉で揶揄されたりしました。


たしかにあれはちょっとキツかった!
しかしそれとこれとは別問題。御大はきっとスクリーンの中ではいつもと同じように輝いているんだ!僕はそう信じて俳優イーストウッドの復帰作「人生の特等席」を公開初日の初回に見てきました。


結論を先に言うと、信じ続けて正解でした。
映画が始まってすぐに「MALPASO PRODUCTION」の文字と映画のタイトルがいつもどおりそっけなく出たのを見て、もう間違いないだろうと。
物語自体は定形に忠実な旧時代と新時代の対立構造を下敷きにしたもので、そこになにかマジックがあるわけではありません。
むしろ予告編から想像できる展開と、本編の序盤で提示される各キャラの設定や伏線めいたものがそのまま思った通りにクライマックスへ収束されていきます。


それじゃあなにが良かったのか。
イーストウッド御大に決まってるでしょう!
最初のシーンから最後までマッチョなアメリカ的価値観と効率やテクノロジーばかりを礼賛する時代への反骨を全開にして、時に「グルルル」と唸り、時にものに当たり散らして吠える吠える。
これが舞台であれば「いよっ!成田屋!」と大向うにでもなって掛け声をだしたくなるほど、いつものイーストウッドがそこにいました。


と、まあこれだけでは「ファンの集いじゃん」と思われかねないので補足をしておくと、まず助演の二人(エイミー・アダムスジャスティン・ティンバーレイク)の掛け合いは素晴らしかった。特にジャスティン。野球選手としては大成しなかったスカウトマンという役柄が妙にハマっていましたね。スターのくせになんでか「そこらへんにいそうな気のいい兄ちゃん」ぽさが抜けない彼のキャラが良いケミストリーをもたらしたように思います。


あとは普通の日本人ではなかなか馴染みのない田舎のアメリカ描写が良かったですね。大リーグでもマイナーですらない小さな野球場に集う人々の感じとか、フリーフードでホットドッグが用意されてるところとか「これが本当のアメリカだ」というシーンが多くてそのあたりも楽しめると思います。


派手なアクションも過剰なお涙ちょうだい展開もない地味な作品といってしまえばそれで終わりになりかねない映画。だけれどほとんどの僕たちわたしたちの人生だってSS席みたいにフカフカのクッションやリクライニングなんてない、固いプラスチックのそれでもやっぱり愛らしい特等席なのではないでしょうか。
ほんのりと暖かい余韻を与えてくれる、そんなステキな映画でした。