The Company Men

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映画「カンパニーメン」 10年 米
監督:ジョン・ウェルズ
主演:ベン・アフレック




僕たちが学校の歴史の時間に世界恐慌について習ったように遠くない将来、教科書にはリーマン・ショックやら金融不況という文字が載るだろう。
「その日」以前・以後という語られかたをして取り上げられる日付は少なからずあるだろうが、2008年9月15日も確実にその日のひとつとしてこれから語られていくだけの非常に大きな衝撃を今も残し続けている。
右肩上がりで増え続けていく給与、そんな不確定な期待をあたかも厳然たる事実のように信じてひたすらに成長を目指し続ける経済活動。その裏側には最低賃金以下で働く不法滞在者達や金にならない労働のアウトソーシングがあった。
自分たちの手からモノを生み出すことをやめて形のない株や金融商品の乱高下する価値に縛られてひたすらに数字と格闘することがステイタスの高い仕事ということになった。
実体のない価値という文字通り砂上の楼閣を築き続けた人々は、いとも簡単に崩れゆく夢の国をどのような気持ちで眺めていたのだろう。


アメリカ映画界の底力を感じるのは、時代のダイナミズムへ機敏な反応をし時に直接的にそれを描写し、またある時には物語の中にそれを落とし込み深いテーマ性と共に見るものに訴えかけるという作品がきっちり制作される時だ。
カンパニーメンは「その日」からわずか1年強でサンダンス映画際にて公開され、今年の初めにアメリカで一般公開を果たした。
まず特筆すべきはそのスピード感。「これは伝えなければならない」という強い使命感と意志を表明し、それをサポートする体制が即座に組み上げられることが、金融工学とかいうふざけたものを作り出した者達に対するなによりのカウンターパンチになっている。
「アメリカに重工業はない」とは映画内で宣言される事実だが、映画という総合芸術の現場はまったく死んでいない。


今作に一貫しているメッセージは気高くあれということだ。
それは決して仕立ての良いスーツを着たり、高級車に乗ったりすることではない。(そのような生活スタイル自体が悪いわけではなく)
法を侵していなければ人を不幸にするような行いをしてもいいのか?倫理観と聞くと身構える人、鼻で笑う人もいるかもしれないが、結局のところそれなしで人間と獣は変わらない。まさにEconomic animalがのさばった結果がこれだ。


カンパニーメン=仕事人間達がこれからどのような道を進んでいくべきなのか。
その問いにひとつの選択肢を提示する時代性と普遍性を兼ね備えた優れた映画だった。