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SUPER

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映画「スーパー!」 10年 米
監督:ジェームス・ガン
主演:レイン・ウィルソン



冴えない男がお手製のスーツに身を隠しヒーローとして活躍するというまるで「キックアス」なプロットの今作。
鑑賞後に残るじんわり暖かい余韻と切なさと少しだけ考え込まされるテーマ性という点でこの二つは全く似て非なる作品だ。
主人公のフランク(レイン・ウィルソン)には人生で2度だけ輝かしい瞬間があった。
一つは自分には不釣り合いなほど美しい妻サラ(リヴ・タイラー)を娶ったこと。もう一つは街で泥棒逮捕に協力したこと。
しかしその妻は麻薬ディーラーのジョック(ケヴィン・ベーコン)に奪われてしまう。彼女には薬物依存の前歴があったのだ。
妻を取り返そうとするもあっけなくぶちのめされてしまい途方に暮れるフランクはキリスト教信者向けのチャンネルで放送されていたヒーロー番組「ホーリー・アヴェンジャー」に感化される。
今作がキックアスと決定的に違うのはフランク扮するヒーロー・クリムゾン・ボルトが神の導きを行動原理にしているところだ。
神の名のもとで潔癖なまでに悪を憎むことになるフランクは麻薬の売買、ひったくり、果ては列の割り込みにまで容赦なく罰を与える。
方法はいたって単純。スパナで顔面を思い切り打ち付けるだけ。やられた相手はとうぜん血みどろだ。
軽微な犯罪や非道徳的な行いに対する裁きとしては行き過ぎな行動であるにも関わらずフランクは意に介さない。彼にとって責任の所在は彼にはなく神にある。彼はただ神の教えに従い神に代わって裁きを与えているだけだからだ。
これは人類の歴史に刻まれてきた悲劇の縮図だろう。例えばナチスの隊員として数百万というユダヤ人を強制収容所へ送り込んだアドルフ・アイヒマンのように、フランクもまた圧倒的な力への忠実なしもべでしかないのだ。


しかしこの映画はそれだけで終わらない。
実はフランクよりもイッちゃってるのはコミックショップで働く22歳の女の子リビー、またの名をクリムゾン・ボルトのサイドキック・ボルティ(エレン・ペイジ)なのだ。
妻を取り返すため、悪を根絶するために神の啓示を受けた(と盲信する)フランクと違いリビーには純粋な破壊衝動しかない。彼女にとってクリムゾン・ボルトは彼女の行動を担保する方便でしかないのだ。
劇中彼女は友達の車にキーで傷をつけただけの相手を悪と断罪し花瓶で脳天をかち割ったり、リビドーの赴くままにフランクを犯すなどやりたい放題で完全に物語を支配してしまう。
今作を観たらもうどの映画でエレン・ペイジが出てきても震えが止まらなくなりそうだ。それくらい彼女の演技は狂気に満ちている。その狂気を堪能するだけでも今作には必見の価値がある。


純粋悪に対する概念としての純粋な正義もまた悪ではないのか?ダークナイトで描かれたテーマと同じものをこの「スーパー!」は提示している。
予算はダークナイトと比べものにならないほど小さいがスーパー!は終始大爆笑を引き起こすコメディ映画であり、クライマックスの救出劇は完全なスプラッタ映画でもあるというモンスター級にスケールの大きな作品だ。