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天才 勝新太郎 

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2010年1月20日に初版発行。
僕は2011年4月に購入。なのに大手の本屋で購入したこれがまだ一刷りだった・・・。
つまり世の中的にはお世辞にもベストセラーとは言い難い(とは言え第42回大宅賞ノミネート)著作にして題材が出版時から数えて没後13年も経っている俳優・勝新太郎。冷静に考えて「なぜ、今これを読む?」と自分自身に問いたくもなる。
はて、「なぜ、今」なのだろう。それはおそらく「別に今じゃなくてもいいから」なのではと読後こう思うにいたった。
本来この手の人物評伝本に多いのは「この混沌とした現代にこそ××の生き方が必要」とか、まあそんな宣伝文句だったりコメントだったりする。
実はこの本にしたってそんな立派な理屈をつけることは可能なのだ。
なんせリーマン・ショックに端を発する金融恐慌でスポンサー料が減ったということを臆面もなく茶の間に喧伝して「だから同じようなフォーマットの番組でしのぐしかない」とか「セットに金がかかってなくてサーセンw」という理由をあたかも「だから俺たちはいま不調なんだ」と言わんばかりのテレビメディアに対して、昔の映画・テレビはただ高度経済成長で潤っていたから凄かったわけじゃないというカウンター・パンチとして捉えることも出来るから。
しかし著者である春日太一氏の文章はいたって冷静に勝がどれだけ才能に溢れていたのかのみを描写し、決して当時の権勢を楯に「だから今の芸能界は奮わないのだ」なんて的外れな批判を繰り出したりはしない。
そもそも”偶然の完全”を理想とし、”大袈裟に誇張された表現、説明のための表現、・・・分かりやすくするため、盛り上げるためにデコレーションされた全ての表現をトゥーマッチと切り捨てて”いった勝のアーティスト性を制作に充てられる金銭の多寡で測れるわけがない。
もちろん制作費がカットされ現場で現実的な決断を強いられる作り手や演者が事実存在することも理解しているが。

松方弘樹公式ブログ/あーイヤだ・・・


ともあれこの本はただただ圧倒的な才能と、思うようにならない理想と現実に苦悩する俳優・勝新太郎という「昔の破天荒な役者」などという画一的な印象では到底片付かない人物を”書きたくて書きたくて、我慢が出来なくなっていた”人がただ書いたという黄金の労働力によってのみ誕生した奇跡のような一冊だ。
現実的に役に立つことばかりを摂取しようとする人も時にはこの圧倒的な才能に打ちひしがれてみてはどうだろうか。


天才 勝新太郎 (文春新書)

天才 勝新太郎 (文春新書)