Letters to Juliet

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映画「ジュリエットからの手紙」 10年 米
監督:ゲイリー・ウィニック
主演:アマンダ・セイフライド


あらすじは長くなるので動画でどうぞ。



この作品にコピーをつけるなら「アマルフィよりよっぽどイタリアが好きになる」でバッチリだ。ちなみに括弧内アマルフィは”ツーリスト”にも変換可。
今作の舞台となったヴェローナは市街そのものが2000年に世界遺産に登録されたほど歴史に富んだ小都市で何よりシェイクスピアの名作中の名作「ロミオとジュリエット」の舞台として名高い。
この町には世界中から恋に悩む女性達がジュリエットの家を目指して訪れており、彼女らはみな悩みを手紙に託しジュリエットの家の壁に貼り付けていく。そしてその手紙に返事を書くジュリエットの秘書達がいる。こんなロマンチックな題材を見つけた時点で作品としては半分成功したも同然だろう。
それに加えて物語の推進力に50年も忘れず思い続けた恋と、それを見守り後押しする若い二人の恋が絡むという盤石のシナリオはもはや広瀬香美以上にロマンスの神様に愛されまくった作品と言わざるを得ない。
登場人物のキャラクターもそれぞれチャーミングで見ていて微笑ましくなるのだが、特筆すべきは主人公ソフィー(アマンダ・セイフライド)の婚約者ビクター(ガエル・ガルシア・ベルナル)に尽きる。自分のわがままを情熱的にあの愛くるしい笑顔とイタリアなまりの舌っ足らずな英語で訴えられたら悔しいけど憎めない。そしてそんな彼の振る舞いをラテンのなせる業だなと感心していると劇中でまさかの展開。ソフィー曰く「彼は自分を本当のイタリア人のように思っている」ってヤング・ジェネレーションかよっ!思わず席から滑り落ちそうになった(笑)


さて、結論から言うと僕は今作を生涯ベスト級に愛してしまったわけだけど、反対に否定的な人がいるのも理解できる。この世界にはねたみや蔑み、嫉妬などの悪意がまるで存在しないかのような作りになっているからだ。事実その無菌っぷりはディズニーのそれをも凌駕している。
そもそも恋愛映画というのはとかく非難を受けやすい。往々にしてそれらの作品は恋愛のいいところしか描いていないからだ。
例えば最近の作品でブルー・バレンタインなどは今作とは真逆の崩壊寸前の冷え切った夫婦生活という見ていてあまり気持ちいいとは思えない状況をとことん現実的に描くことで高い評価を得た。そこには些細なことですぐ互いを傷つけ合ってしまうボロボロの二人がいて、彼らの毎日はどう頑張っても輝いているとは見えなかった。そして、程度はそこまで絶望に満ちていなくとも、その「輝かない」「輝けない」毎日は多くの我々が共有するところだろう。それなのに劇場ではただただ幸せなだけの二人が仲むつまじく愛し合っている映画ばかり流れていれば批判の一つも言いたくなるのは無理もない。
けれど、だからこそと僕は思いたい。だからこそ僕たちはあえて非現実なほどロマンスに溢れた世界をひとつでも多くこの目に焼き付けるべきなのだと。
絶望や悲しみはそれを知るものにしか語り得ないのならば、希望や喜びもそれを知り得なければ思い描くことすらできない。
そう、だからこそこの映画が誰の中にも忘れがたい暖かな光となるように僕は今作を心の底からオススメするのだ。