Paper Clips

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映画「600万のクリップ 〜ホロコーストを学ぶ〜」
監督:Elliot Berlin


アメリカ、テネシー州の小さな白人社会の町の学校で、ある教師が第2次世界大戦ユダヤ人迫害に関する授業を始める。生徒たちは世界中の人々に呼びかけ、殺されたユダヤ人600万人分のクリップを数年かけて集めていく過程を描いた作品。
from 松島・町山 未公開映画際HP


「ドイツ人はいったいどんな姿をしているの?私たちに似てる?」
アメリカ南部テネシー州のホウィットウェル、人口およそ1600人程度の小さな町の中学校をドイツ人の夫婦が初めて訪ねることになったとき、ある学生は教師にこう質問したそうだ。
南部アメリカといえばバイブルベルトの異名を持つほどにキリスト教保守派の影響力が強く、国内からもその排他性と偏狭さが嘲笑の的になる。
そんな場所へこのドイツ人の夫婦はなぜわざわざ訪ねてきたのか。
それはこの町の中学校で始まったある課外授業を取材するためだった。
第二次世界大戦ヒトラー政権の下でナチスドイツは多くのユダヤ人を虐殺した。
それから50年以上の歳月を経てこの悲劇は遠くアメリカの片田舎に住む中学生達の手で改めて忘れ去られない過去として刻まれることになった。
ナチスドイツによる大虐殺で殺されたユダヤ人の数は600万人にものぼるそうだ。
生徒達はあまりの数の多さに驚愕したがそれがどれだけ途方もない数なのかを理解できなかった。
そんなときある生徒がこう提案した。
「クリップを600万個集めてみよう」
当時、ナチス政権に反対するノルウェー市民がシャツの襟元にクリップをつけていたという記述から、虐殺で殺された人々の鎮魂を兼ねて彼らのクリップ集めは始まった。
初めは上手くいかないことも多かったこの活動だが、前出のドイツ人夫婦の取材から各種メディアでの露出が増えたこともあって一気にクリップの数は増加し、最終的には3000万近いクリップが集まった。
彼らの活動はこれだけにとどまらない。
ホロコーストを生き延びた人々を招いての講演会。
収容所へユダヤ人を運ぶために使われた車両を取り寄せての記念館作成。
今ではこの小さな町にたくさんの人が訪れるようになった。


未公開映画際の作品群で「ザカリーに捧ぐ」でも泣かなかったのに僕はこの映画で号泣してしまった。
生徒達に何かを学んで欲しいと起ち上げたプロジェクトで生徒達と共に人間として大切なことを学んだと語る教師達。
真っ直ぐな視線で悲劇と向き合い世界を広げていく生徒達。
声を詰まらせながらも当時の様子を克明に語る生存者の方々。
学校の課外授業という枠を超えて町全体が一つになったとき僕はもう言葉が出なかった。