Dear Zachary

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映画「ザカリーに捧ぐ」 08年
監督: Kurt Kuenne


2001年に殺害されたアンドリュー・バッグビィの子供の頃からの友人である監督による作品。アンドリュー・バッグビィは、ペンシルヴァニアの駐車場で殺害される。その第一容疑者であった彼の元ガールフレントは、アンドリューの子供を妊娠・出産し、ザカリーと名づける…。
from 松島・町山 未公開映画際HP


珠玉のドキュメンタリーが網羅されているこの未公開映画シリーズの中でも1番の人気を誇る作品がこの「ザカリーに捧ぐ」だ。
その理由はこのドキュメンタリーがまさに直視し難い現実を克明にドキュメントしているからであり、さらにその現実が最後にとてつもない展開を見せるからに他ならないだろう。
父親を知らずに生まれてくることになったザカリーのために父親の紹介ビデオを作るという名目で制作されたプライベートフィルムがなぜこのような公開のされかたをしなければならなくなったのか。
それはこの作品が社会を変えうる可能性と社会を変えなければならないという必要性を帯びたからだ。
観る者の感情を揺さぶるためならば劇映画にしてしまってもよかった。この現実はフィクションに変容されていくだけの力を持っている。
いや、いっそこの中の全てが作り話だったらいいのにとさえ思う。
しかしこの映画の中で起こる悲惨な事件はそのためだけに使われるにはあまりに不条理すぎたのだ。
作り手の意図を超えて最後には一個の堂々とそびえ立つメッセージを築き上げることになったこの作品はドキュメンタリーがドキュメンタリーである意味をも明らかにする素晴らしい映画だった。