C.S.A

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映画「CSA 〜南北戦争で南軍が勝ってたら?〜」
監督: Kevin Willmott(ケヴィン・ウィルモット)


もし、アメリカの南北戦争で南部が勝利していたらその後のアメリカは、世界は、どうなっていたのかの検証を試みた作品。しかしただのドキュメンタリーではなく、全編がイギリスのテレビ局が制作したアメリカ連合国の歴史を振り返るドキュメンタリー番組の体裁になっており、合間には色々なCMも入る偽ドキュメンタリー。
from 松島・町山 未公開映画際HP


工業化を突き進む北部23州と、農業、特に綿花の輸出によって経済を回していた南部11州によって争われた南北戦争
現実には北部が勝利を収めたこの戦いにもし南部が勝利していたら?というアイデアで制作された今作は現実の世界のアメリカがアメリカ合衆国ではなくアメリカ連合国(Confederate States of America)として存在しているとして、その体制を批判するイギリスの放送局が制作したドキュメンタリーという体で制作されたフェイク・ドキュメンタリーだ(ややこしい)。
歴史にイフはない、という定型句で事を済ましてしまう方には荒唐無稽な一品として流されてしまうかもしれないが、その決まり文句によって思考停止に陥ってしまうこともままあるということは申し上げておきたい。
その点については私がとやかく言うよりも内田樹氏の「街場のアメリカ論」でも読んでいただければ、歴史のイフを考えることこそが歴史に学ぶということだと感じられると思う。ちなみに文庫版の解説は未公開映画際でお馴染みの町山氏。

街場のアメリカ論 (文春文庫)

街場のアメリカ論 (文春文庫)


さて今作だが、話の核として最後まで推進力を持続し続けるのは綿花産業を生業にしている南部にとってかかすことのできない奴隷制度だ。
しかしこの映画、その奴隷制度がいかに残酷で愚かな制作であるかを訴えるような話に終始するわけではない。
むしろそのあたりの描写は割と軽い。さすがにテレビショッピングで黒人一家を競売するくだりは酷いけれど。
ではこの作品が壮大なウソを通して訴えたかったことはなんなのか。
それは北部が勝ってU.S.Aになってよかったよかった、ということになっている本当の現実だって眉唾だってことだ。
一番わかりやすいのは今作で合間合間に挟まれるCM。
そのいくつかで黒人を蔑視したり揶揄していることが明白な商品が紹介されるのだが、とうぜんこれはフェイク・ドキュメンタリーだからこその少々行きすぎた演出だとこちらは思うわけだ。
しかしそれらの商品、例えばNワードを冠したタバコ、は実際にU.S.Aで販売されていたものだから驚いてしまう。



ことほどさように、歴史とはある一面では勝者の都合に沿って作られている結果論の集積でもあるわけで、それらを別の角度から眺める、または今作がしたように根っ子の部分を改訂して検証してみるという作業は「歴史にイフはない」とクールに切り捨てて終わりに出来るほど野暮なことではないだろう。
その点において今作はとても興味深い問いかけに成功したと言える。素晴らしい作品だった。