High Plains Drifter

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映画「荒野のストレンジャー」 73年 米
監督:クリント・イーストウッド
主演:クリント・イーストウッド


イーストウッドの監督第二作目にして彼の代名詞とも言える西部劇を初制作した一作。
とある男(クリント・イーストウッド:役名Stranger)がとある町へやってきた。到着早々にこの町に用心棒として雇われている3人の男に因縁をつけられるも、男は華麗な銃さばきで3人をやっつけてしまった。
その腕を見込んだのは他でもない町の住人達で、彼らは1年前に起きた事件を恐れるあまり素性も判らないこの男に用心棒を依頼する。
この町では1年前にある保安官が当時この町の金鉱を守るべくして雇っていた3人の男にリンチにあい殺されたのだ。
そしてその光景を傍観するだけで保安官を見殺しにした住人達は次にその手で酔っぱらって酩酊状態の3人の男を刑務所送りにしていたために、彼らが出所して報復のために再び町へ戻ってくることを恐れていた。
「欲しいものなら欲しいだけ、やりたいことならやりたいだけ」
という好待遇を条件に用心棒を引き受けた男だが、あまりの傍若無人ぶりに住民達の中には反発するものも現れていく。
そしてついに報復を企む男達が町へとやってきた。


いわゆる西部劇としてはかなり異色な展開&結末。正義対悪の2項対立というわかりやすい話ではないし、ガンアクションで魅せる痛快エンターテインメントでもない。
それよりもこの映画が見るものの前に剥き出しにして見せてくれるのは、幸福や信頼や平和という理想的概念がいかに欺瞞に満ちているものなのかということ。
そしてこの映画のメッセージは「勇気あるもの、誠実なものは必ず報われる」ということ。
僕は多くのイーストウッド映画の根底に流れている“弱きものへの愛”という、見方を変えればただのルサンチマンにすらなりかねない精神がとてつもなく好きなのだけれど、この映画がその源流といっていいと思う。
映画の中でイーストウッド演じる男が与えられた待遇を利用して町の権力者である町長、そして保安官の職を町一番の弱者である小人症の男に委託するという場面があったり、貧乏で服もろくに買えない家族にたんまり服や食べ物を与える場面があったりするのだけれど、これなんてまさにイーストウッド映画的描写の最たるもの。
強きを挫き、弱きを助ける。これほど明快なテーマをそれこそ勇気を持って誠実に映画に落とし込むからこそ僕はイーストウッドの映画が大好きだし信頼できるのだと確信した。
今作はただの西部劇映画では収まらない素晴らしい作家性を披露した最初期の金字塔といえるだろう。