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映画「選挙」
監督:想田和弘
主演:山内和彦
   山内さゆり


ドキュメンタリーを超えた「観察」映画。
劇中にはナレーション、音楽その他の飾りは一切なくただ絶妙に繋ぎ合わされた映像が流れていく。
舞台は2005年、神奈川県の川崎市
ひょんなことから何の縁もない街の市議会補欠選挙自民党公認候補としてまさに落下傘的に出馬することになった山内和彦の選挙戦はいかに当時の小泉旋風の後押しがあるとはいえ楽ではなかった。
神は細部に宿りたもうという言葉、この言葉が似合う映画だった。
国政や県政を左右する規模の大きな選挙戦にはおそらくないであろう市議会選特有の、それも補欠選だからこそ巻き起こった各政党の総力戦はいかにして小さなパイのそのまた低い投票率の中から一票でも多くを掬い取るかが鍵だ。
だからこそ候補者は東に保育園の運動会があれば顔を出し、西に老人クラブの運動会があればそちらにも顔を出し一緒にラジオ体操をこなす。
地元の有力者らしき人の食事会ではなりふりかまわず票の掘り起こしを依頼し、県会議員や先輩市議会議員の票田をこの選挙の時だけだという条件で譲り受ける。
落下傘候補、それも政治経験の全くない候補は結局地元のベテラン党員に言われるがままにしか振舞えない。つまり候補者は矢面に立つ割に主導権がないのだという事実は衝撃だった。
まずこの点において細部とは選挙区の規模としての細部を意味する。
そして映画という一つの作品としての細部は最初に述べたようにこの映画の「観察」性にある。
僕が好きだったのは選挙事務所でボランティアとしてお手伝いをしている地元党員の人たちの完全に半径5メートルな内容の会話がそのまま流されていたところで、これはカメラの存在がある種完璧なまでに消えていない限りはなかなか撮れない画だと思う。
そしてこのような細部が積み重なることによって選挙戦の内幕はよりリアルに見るものに伝わっていく。
どこまでも細部に切り込んでいくことで選挙の孕むおかしみのようなものを描き出すことに成功しているこの映画はその点において一般のドキュメンタリーにはない魅力に溢れていて素晴らしい。
それにしても体力的・金銭的にかなり厳しい選挙をしてでも政治家をしたいと思う人、そしてそれを支える人はいったい何に突き動かされているのだろう。そこが気になった。